editorial

NUMBER (N)INE 2002A/W “ NOWHERE MAN ”

NUMBER (N)INE 2002A/W “ NOWHERE MAN ”

20世紀の音楽史に残る世界的音楽グループ“The Beatles”。彼らに多大な影響を受けた人物がナンバーナインのデザイナー、宮下貴裕である。「ナンバーナイン」というブランド名もビートルズの曲『レボリューション9』のフレーズから引用されており、彼の創作活動の根幹となっていることがうかがえる。そんなビートルズのギタリストであるジョージ・ハリスンのソロアルバム『All Things Must Pass』のジャケットからインスパイアされて生み出されたコレクションが、2002 A/W “NOWHERE MAN”(通称:ジョージ期)だ。

本コレクションで特筆すべき点は、それまで徹底してモノトーンの世界観だったコレクションが一転してブラウンベースになったということだ。その代表的なアイテムがこちらのツイードジャケット。カントリーライクなノーフォークジャケットがベースになっていて、肘にはエルボーパッチをあしらい、ウエスト部分はレザーロープを通せる作りになっている。上からカウチンニットも羽織れるようになっており、まるで薄いニットを着ているかのような軽さも特徴的だ。

では、何故ブラウンベースになったのか。それは、『All Things Must Pass』のジャケットから感じられる解放感や、アルバムを通してカントリー調の曲が流れる牧歌的な雰囲気から汲み取られたものであろう。また、私は当時の宮下貴裕は窮屈で多忙な日々を過ごし、外の世界に圧倒的な憧れを抱いていたように感じる。その精神性がこのジャケットから感じられるインスピレーションと結びついたのかもしれない。

コレクションのタイトルになっている”NOWHERE MAN”は、彼がビートルズの作品の中で最も好きなアルバム「Rubber Soul」に収録されている曲名で、日本語訳は『ひとりぼっちのあいつ』。そして皮肉にもジョージ・ハリスンは本コレクション発表の前年、2001年11月に息を引き取った。それらが相まってか、本コレクションを見る度に私は少し切ない気持ちになる。

 

Written by Suzuki Tatsuyuki
Edited by Sakaguchi Takuya

Instagram:tszk_as >>

読み続けて