COMME des GARCONS Lips & Tongue 2006 S/S

2000年初頭において、ロックスタイルやポップアートはファッションの表現の新たなスタンダードとなりました。その背景にはエディ・スリマン率いるディオール・オムが数年に渡り提示したロックミュージックを織り交ぜたスタイルや、トム・フォード率いるイブ・サンローランが2001年に開催した「ポップな時代展」による大衆芸術とファッションの密接化などがあります。そして、2006年パリメンズ春夏コレクションにおいても、最も重要なキーワードとなったのが「ミュージック」です。
そこで一際注目を集めたのが、こちらのコムデギャルソン・オム・プリュスのジャケット。ロックバンド「ローリング・ストーンズ」をコンセプトにし、彼らのロゴマークである「Lips & Tongue」(通称:リップ&タン)のデザインや、メンバーのサインを全面にあしらったテーラリングスタイルを提示しました。この「リップ&タン」は、当時アートスクールの大学院生だったジョン・パッシュによってデザインされたもので、ローリング・ストーンズは他にもアルバムのジャケットデザインにアンディ・ウォーホルを起用するなど、ポップアートへ高い関心のあるグループでした。そしてこれらのコレクションは2006年がいかにミュージックムードだったのかを表わす象徴的なコレクションとして、後世に語り継がれていきます。
しかし、コムデギャルソンのデザイナーである川久保玲は、単に「ミュージック」という潮流に合わせて「リップ&タン」のデザインを採用したのでしょうか。彼女は2006年当時、写真家「ヘルムート・ニュートン」の写真展をディレクションしていました。その中でも注目を浴びたのが、生前ニュートンが残した伝説の作品『Lips and Eye Collage,2003』。この作品がまさに、唇のみが赤く染められ、接写で大胆に表現されているものでした。ニュートンの前衛的で挑戦的なスタンスが、川久保玲自身のスタンスと重なったのかもしれません。彼女はその年のコレクションで、それらからインスピレーションを受けたアイテムを発表し、新しい価値観を提示したのです。
ニュートンの作品とローリング・ストーンズの「リップ&タン」という、同じ“唇”をモチーフにしたデザイン。彼女が同時期にこれらと出会ったのは偶然なのでしょうか。きっと、ポップアートと関係の深いローリング・ストーンズのスタイルと、ヘルムート・ニュートンの挑戦的なスタンス、そして川久保玲の前衛的な欲求が、本能的に惹かれあったのかもしれません。そんなコムデギャルソン・オム・プリュス「リップ&タン」コレクションを着て、ショーミュージックとしても使用されたローリング・ストーンズのアルバム「Forty Licks」を聴けば、2000年初頭のポップアートとミュージック、ファッションの出会いと熱狂に思いを馳せることができるでしょう。
Written by Suzuki Tatsuyuki
Edited by Sakaguchi Takuya
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