Maison Martin Margiela Pilot Cap Leather Jacket 2005
芸術か、それとも衣服か。
マルタン・マルジェラの作品を目の当たりにし、そのアヴァンギャルドなルックスやあまりにも斬新な服作りの手法に触れた時、わたしたちは彼の作品の中に芸術性を見出そうとしてきました。
例えばこのジャケット。世界中から集められたヴィンテージのパイロットキャップをつなぎ合わせることによって生まれた作品で、マルタン・マルジェラの代表的なアーティザナル作品の1つです。強引に平面化されたキャップが生み出す不均一なフォルムが全面に展開され、圧倒的な存在感を放っています。確かに、彼の作品が「芸術」と謳われる理由はこうした奇抜で型破りな服作りをしているからなのでしょう。
また、特にこのジャケットに顕著に表れているのがファッションに"概念(コンセプト)"を持ち込む、という手法です。誰もが一度は見たことのある“モノ”を“服”という形で再提示することによって、本来の“モノ”としての役割から解放すること。そして、それぞれのアイテムの傷や汚れ、時間の経過による風化をそのまま残すことによって、製作過程を顕在化させることなどが挙げられます。共通するのは、造形の奥にある背景を想像させるということ。まさに、美術史におけるコンセプチュアル・アートを提示したマルセル・デュシャンのようなアプローチをファッションに落とし込んでいたのです。そのほかにも、古着を用いることや、年配のモデルの起用、廃墟のような場所で開催されるショーなど、マルタン・マルジェラのスタンスからは、彼が既存の価値観に疑問を持ち、新しい価値観を生み出そうとしていたことが感じられます。
このように、一見「芸術」として認識してしまうようなアーティザナル作品。しかし、マルタン・マルジェラは“ファッションは芸術ではなく、技巧であり、技術的ノウハウである”という格言を残しています。また、2005年にはアーティザナルラインをコレクションでの発表から、店舗で毎月1作品を販売する方式に切り替えました。これは、自分の作品が芸術として見られることに違和感を覚えたマルタン・マルジェラが、自分の作品はあくまでも着てもらうための服であるということを示すために始めたものと捉えることができます。
改めてジャケットを見てみると、見た目は前衛的ですが、構造自体はシンプルで、袖を切り離して2WAYでの着用が可能になっていることなどを見ると、着ることもしっかりと考えられた作りであることが分かります。それはまさに、受け手それぞれが自由な解釈で、衣服として着用し、楽しんでもらいたいというマルタン・マルジェラの意思表示なのかもしれません。
Written by Suzuki Tatsuyuki
Edited by Sakaguchi Takuya
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